第七回読書会議事録

筆者:咲

『石持浅海を読んだミス研』

今回の参加者3名の紹介
倫:黒髪ポニーテールで性別不詳な進行役
筍:ロックグラス片手に参加のダンディ
咲:金髪碧眼ツインテールのお嬢様(鳴き声が「ですわ!」)

倫「さて、今夜は楽しい楽しい読書会」
筍「もう七回目になりますか」
咲「今回は少し人が少なくて寂しいですわね」
倫「まあ気にせずワイワイやろう」
筍「ワイワイ」
咲「ですわー」
倫「じゃあ、まずは議題1のトリックと推理について語ろうか」

【議題1】(トリック、推理について)

話題1)扉の構造について
倫「そもそも読み混み不足で悪いのだけれど、僕にはイマイチ扉の構造がわからない。このドアストッパー外から外せないかな?」
咲「なぜそんなことも分からないのかしら?」
倫「……すまない」
咲「床に出っ張りがあるので、そこに扉があたり、隙間が出来ないんですわ。おそらくこうなっているのだと思いますわ(イラストツールを画面共有し絵で説明する)」
倫「うん……うん?」
筍「まあ、そこはしっかり読めば分かるから」

話題2)窓について
倫「まず、高級住宅地の中で、成城という地の利を上手く使っていると感じたな。けれど僕が思うに、窓の件は流石に慎重すぎると思う。八時間も出てこなかったら、普通は世間体なんて気にしないで、窓を割るという決断になるんじゃないだろうか?」
咲「いえ、それは伏見がこの舞台を選んだ時点で想定されていることでなのですわ。登場人物たちの考えでいくと、ドアストッパーの件から新山が故意に籠城している可能性も完全に否定できないわけだから、容易に行動に移せないのでしょう?」
倫「なるほど。軽率な行動は出来ないと、伏見に思考を誘導されているわけか。けれど、そうだとしても僕なら夕食時点で病気で倒れている可能性を考えつくね」
筍「四時間は流石に早いような気がします」
倫「薬を渡しているし、それの副作用で……という展開にはならないかな?」
筍「併用して重篤な副作用を危惧している、なんてシーンはありましたかね?」
咲「その辺りは伏見が医療のベンチャー企業に勤めているということもあって、彼の意見が尊重されているのでしょう。そもそも伏見がリーダー的ポジションに収まってることも、皆が意見を受け入れやすい状況なのだと思いますわよ」
倫「それでも僕は、夜の十時なら割れよ、と思うけれどな」
筍「そこは同意します。そんなこと言ってる場合ではないだろう。冷静すぎる……というか、登場人物が薄情だと感じてしまいますね」
倫「この辺りの描写のせいでこの人達の関係が薄っぺらく見えてしまうんだよな。社会人らしい世間の目を気にした行動とも言えるかもしれないけれど……」

話題3)シャツとベッドと藤椅子……そして動線について
筍「それよりも私が気になったのは新山の動線についてですね」
倫「動線?」
咲「あら、それはワタクシも思いましたわ。論理が腑に落ちません」
筍「いくら手近にあるからって、必ずしも近くのベッドを使うということにはならないのではないですか?」
咲「そうですわね。ワタクシも好んで奥のベッドを使うことがありますし」
倫「お嬢様らしからぬ発言だね。ドレスを着て窓から遠い、光も当たらぬ部屋の隅に置いてあるベッドの上で膝を抱えるのかな?」
咲「無視ですわー」
筍「最初に座ったり何なりして、手を付けてしまったから奥のベッドを使うことにしたというのは充分に考えられることではありませんか? それに二度寝の話をするなら、二度寝をしたから溺死の可能性はないというのも少し説得力に欠けるような……」
倫「確かに二度寝の件は僕も思った。二度寝しようが何しようが浴室の中で倒れている可能性は排除できないと思うんだ。それこそ、床で足を滑らせて角に頭を打ち……ということも考えられるわけだからね。少し近視眼的な結論なように思える」

話題4)鍵について
筍「私は鍵を無意識にかけるのなら、ドアストッパーも無意識にかけてしまうような気がするのですが。皆さんはその辺り、どう思われましたか?」
倫「そうだね、僕もビジネスホテルなんかに泊まると、自然にドアストッパーまでかけるから、その辺りは少し説得力に欠けるような気がする」
咲「ですがこの作品では新山が『このメンバーなら鍵を掛ける必要はない』と言っていますから、そこが理由になっているのですわ。市中のホテルならともかく身内だけの集まりでは鍵をかける必然性も低まりますし」
倫「まあ……そう言われると、そうなんだけどね……」
咲「煮え切りませんわね……。優佳の言うとおり、鍵だけで充分ですわ!」
筍「作中ではわざわざドアストッパーをかけた理由を、石丸と安東が酔っ払って入ってこないように、という推理を伏見がしていますが」
倫「その言い訳も苦しいといえば苦しいかな……」
咲「まあ言い訳ですもの……しょうがありませんわ。それにこの話をしている時はまだ実際にドアストッパーがかかっているかどうか分かっていません」
筍「実際にドアストッパーの存在が判明してからは新山が故意に籠城している……中でやましいことをしているかもという展開になっていきます」
倫「やっぱり苦しいな……」
咲「倫さんの言い分もかなり危ういですわ!」

話題5)視界とメガネ、人の顔と建物の構造について
倫「これは……メガネなしで風呂に入ることくらいあるだろう?」
咲「新山は伏見と違ってこの建物に入るのが初めてですもの。メガネをしていないと友人達の顔の識別もでいない、なんて描写もありましたわ」
倫「でも、いくら強度の近視だからって、人の顔が認識出来ないのと建物の輪郭がボンヤリとも把握できないというのでは話が違うんじゃないのかな?」
筍「確かにそうですね。私も視力は良くありませんが、入浴くらいは裸眼でできますね」
倫「ちなみに僕は現在も裸眼で二・〇です」
筍「それはそれは……もはや特殊能力と言っても過言ではないのでは?」
倫「そうかな? 僕は普段がこれだから意識したこともないけれど……」
咲「ちなみにワタクシも近視ですわ!(キリッ」

話題6)ウィスキーについて
筍「眼鏡やドアストッパー、椅子とベッドの動線などの、他のロジックは気になる部分が多少なりともあったんですが、ウィスキーについては素直に腹に落ちました」
咲「同感ですわー」
筍「希少なウィスキーを酒の愛好家である新山が、日の当たる窓の付近に置かないというのは単純明快ですっきりしました。私も絶対にしません」
倫「あー確かにね。分かりやすかったね」

話題7)密室を形成する米粒について
倫「そもそもこの密室トリックは……ちょっと拍子抜けだった」
筍「あの密室の要である米粒の処理に関しても少し気になりましたね。簡単に扉から米粒を取って処理していましたけど、何らかの痕跡は残ったはずです」*注1:引用
倫「まあ、そこは新山の死体が事故として処理された時点で警察は深く調べたりしないことを見越しての雑さ……というか大胆さとも考えられるけどね」
筍「ただ……倫さんはトリックが拍子抜けといいますけど、この作風で大がかりなトリックを出されても何だかそこだけ浮いてしまいそうな気もしますね」
倫「確かに……そう言われると、例えば気圧差を利用して扉を開かなくしたりするとか、建物が回転して、なんてトリックを使われたらこのリアリティのある世界観が壊れる」
咲「そうです! リアリティですわ! これくらいのトリックなら現実の犯罪でも使われるかもしれない、なんて思ってしまいましたもの」
筍「そうですね……これくらいなら使うかも知れません。全体的にリアリティのある作風で一見チープに見えるトリックも雰囲気作りに一役買っているのでしょう」
咲「そもそも、この作品はトリックを重要視していないのですわ!」
倫「なるほど……良い視点だね」
咲「作中でもトリックなど些末なことと言われているのです。そんなことよりも、この作品は、何故ドアストッパーを利用したのか、という小さな違和感を手がかりとして推理が展開されていく話の構造に重点が置かれていると思うのですわ」
筍「米粒の話に限ったことではないけれど、そもそもの問題として推理小説のロジックが完璧である必要はないと私は思いますね」
倫「そうだな、ある程度の蓋然性……と言うよりも初読時に違和感なく受け入れられれそれでばいいんじゃないかな。僕だって、こうして読書会でもなければ重箱の隅をつつくようにロジックの粗を探したりしないからね」
咲「でもワタクシは一部の隙もないロジックが好きですわ!」

倫「議題1はこんなところかな?」
筍「そうだね」
咲「ですわ!」
倫「まあ、ここまで話を広げておいてから言うのは少し気が引けるけど、この話で重要なのはトリックよりもキャラと動機だと思う」
筍「それも踏まえて次の議題に移りましょうか」
咲「議題2ですわー!」

【議題2】(キャラクター、動機、倫理観について)

倫「これはアレだね……『碓氷優佳は告らせたい~天才達の恋愛頭脳戦~』だね」
咲「動機ってそっちのですの!?」
筍「どうやら倫さんの中ではブームらしいね。ミス研でも度々口にしている」
倫「正直、僕は最後に優佳の動機が明かされるまで、若干この本を退屈に思っていたんだ。けれど、最後の最後にこれが出てきたところで一気にテンションが上がった(恍惚」
咲「今倫さんが言ったネタ元の方はもはや恋愛頭脳戦していませんけれど……」
筍「まあ、それは置いておいて犯人の方の動機についてはどう思います?」
倫「正直……僕は薄い……悪く言えばチープだと思ったかな。臓器移植と意思カード……登場人物達のそれらに対する思い。いまいち説得力が足りてなかった」
筍「私はそこまでは思いませんでしたが、殺すまでにはもういくつかのステップを踏むべきではなかったか、というようなことは思いましたね」
咲「伏見はほとんど話し合いもせずに、海外での悪行……買春を辞めないという話を聞いただけで犯行に及んでいますから……説得すらしていませんわ! 短慮ですわ!」
筍「せめて、直接的な注意くらいはして欲しかったですね」
咲「伏見の頭が良すぎたということかしら。新山の態度や行動から、新山の本質を見抜いたというのは言い過ぎでしょうけれど、おそらくこの男は反省したりはしないだろうから殺してしまえ……という恐ろしい心理のような気もしますわ」
筍「それにしたって……直ぐさま殺してしまうとは……いやはや……」
倫「まあこの作品では、そんな殺人思考な霞むほどに探偵の方がよほどサイコパスだけれどね。こんなにエッジの効いた探偵は流石に記憶にないね」
筍「碓氷優佳に関してはシリーズ通してずっと自己完結して利己的ですから」
倫「そうなのか……まあそれは二巻以降のお楽しみだね」
咲「この探偵は恋愛脳ですわ! 恋愛の為なら殺人なんて気にも留めていません!」
倫「はっ! ラヴ探偵ユカ? IQ3でも任せなさい?」
筍「上手いことを言ってやった、みたいな雰囲気を出していますけど、それほど上手くありませんよ。そのネタ気に入ったんですか?」
倫「あっちのラヴ探偵は石上会計にすぐ倒されてしまうけどね」
咲「かぐや様より今は優佳様の話ですわ! 最後に伏見は受け入れてましたけれど、ナイフを持ちだしている辺り、受け入れてなかったとしても確実に殺さず屈服させたに違いありません。私には分かります!」
筍「最後のメガネの件にしても、もし伏見が気がつかなかったら切り捨てたということなのかな? あの程度のことに気がつかない程度の低い恋人は不要……と」
咲「それっぽいですわね。回想の時のキス顔もそうですけど……作中で描写される優佳の行動は全てが計算ずくのような気がしますわ」
筍「それに気がついた伏見も凄いけどね」
倫「いや、メガネの件に関しては、僕は優佳が伏見を信頼しているが故の奥ゆかしさだと思ったけどね。そもそもとして優佳の方から告白しているわけだし、この後に及んで切り捨てるなんて真似はしないと思う」
咲「うーん……悩ましいですわぁ」
倫「まあ各々の解釈ということで」
筍「優佳は知恵比べで伏見を屈服させたことで完全に彼を手に入れたかったんですね」
咲「まぁ……お可愛いこと」
筍「議題1でロジックの粗を探しましたけれど、むしろ些細な手がかりから蓋然性は低くとも事件性を嗅ぎ取って、しかも考えるだけでなく行動に移していく。この指向性の高い瞬発力こそが碓氷優佳の真骨頂と言えますね」
咲「新山が鍵をかけている事実が判明した時点で疑っている訳ですものね」
倫「となると全ては優佳の掌の上かな?」
筍「可能性はあります」
咲「やっぱり恋愛脳ですわ!」

※この会話はフィクションであり、実在の人物ミス研とはあまり関係ありません

*注1:ミステリ批評サイト「黄金の羊毛亭」より引用した筍さんの意見

【参考文献】
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
http://ja.wikipedia.org/w/index.php?curid=1724504

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