名探偵のはらわた/白井智之

名探偵VS現代に甦った昭和の猟奇殺人犯

 探偵事務所を営む浦野久と助手の原田亘、彼らがとある放火事件を解決しかけたとき、事態は急展開を見せる。
 地獄から七人の人鬼が蘇ったのだ! 鬼たちは、元は数十年前の猟奇殺人犯で、人間に乗り移って新たな事件を起こしはじめる。かくして、憑依された人間を見つけ出してブチ殺すというフーダニットが各短編で描かれることになる。

 世界観はオカルトだが、本質は丁寧な伏線と明晰なロジックで謎を断つ、正統派の特殊設定パズラーだ。民度の低い混沌とした世界を照らす論理の光が気持ちいい。あの手この手で読者を翻弄する技にも磨きがかかっている。

 各事件は実在の未解決事件をベースにしているので、知識のある者は作者がそれをどう調理したのかという楽しみ方もできる。

 八重定、津ヶ山、青銀堂、農薬コーラ……少しずつ変えてあるが、どこかで聞いたことがあるだろう。逆に本書から事件をあたってみるのもおもしろい。

 物語は原田亘の成長譚としてまとまっており、白井作品中でも随一の爽やかな読後感を残す。同じく混沌とした時代を生きる現代人を暴力と論理で癒やしてくれる、 二〇二〇年のマストリードだ。

written by 博愛