クリスマス・ミステリレビュー⑥

『46番目の密室』 有栖川有栖(1992 講談社)
 
 ——クリスマス、枕元に立つのはサンタクロースかそれとも……

 メリークリスマス!みなさまいかがお過ごしでしょうか。
 雨が夜更過ぎに雪に変わる……地域もあるかもしれませんね。低気圧万歳。

 さて、今回紹介するのはみんな大好き作家アリスシリーズの1作目『46番目の密室』
 密室、雪に残る足跡、怪しい人間関係と泣く子も黙るミステリの定番要素が詰め込まれている。

※以下レビューではネタバレには気を付けておりますが、勘の良い方がトリックや伏線に気付いてしまう可能性もあるかもしれません。

 北軽井沢の別荘で日本のディクソン・カーと呼ばれる大御所推理作家が無残な姿で発見される。
 クリスマスパーティーに訪れた面々を襲う不思議な悪戯との因果関係は……。
 別荘の周りをうろつく怪しげな男とはいかに……、という途方も無い謎に臨床犯罪学者 火村英生と”優秀な”ワトソン役の推理小説家 有栖川の名コンビが挑む。

 有栖川くんの涙ぐましい情報収集と火村に協力的な警察メンバーによって、読者にも現場の状況が漏れなく伝えられるのだが、私が自信を持って出した答えは火村に捻くれた考えだと一蹴された。
 それもそのはず、著者があとがきにも書いている通り「トリックを見破れば自ずと犯人が特定できる」構図ではないからだ。
 かといって読んだ後全てを投げ出したくなるような突飛な何かが登場するわけでもない。
 一貫して作中で語られる〈地上の推理小説〉を体現したような堅確さを感じることができる。

 それはさておき、クリスマスにミステリー関係の大人が複数人、雪の降る別荘でパーティーをするなんて物騒にも程があるというものではないか。
 せめて、夏の山頂でキャンプなどしておけば良いものを……。

 そしてなんと新装版についてはあとがき・解説ともに改めて書かれたものも載っており、新本格の巨匠二人の微笑ましい応酬を楽しむことができる。

 2020年も残り1週間を切りました。
 愛すべき密室に閉じ込められた感情をバッハの調べにのせて、燃えるようなクリスマスをお楽しみください。

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