クリスマス・ミステリレビュー⑤

シャーロット・マクラウド『聖なる夜の犯罪』(1990、早川書房)

 アメリカで編まれたクリスマスの時期のミステリを集めたアンソロジーのようです。15編入っていて(うち一つはこれもまた聖夜ということから大晦日の話です)マクラウド自身の話も入っています。40ページを超える話は多分一作もなく、30ページを下回る話も多いのですが、楽しませてくれる短編が多かったです。

 ちなみに同じくシャーロット・マクラウドが編んだ『サンタクロースにご用心』というクリスマスミステリアンソロジーもあります。彼女もまたクリスマスを愛していたのでしょうか。

 一番良いなと思ったのはヘンリイ・スレッサー「クリスマスを愛した男」です。クリスマスぐるいと呼ばれるような男が入念に準備をしたクリスマス当日を前に、妻子を残して失踪してしまうという話。Whyが強い謎です。正直九割以上は予想通りに進行していく(それはそれで期待通りのものを読ませてくれる面白さはありますが)のですが最後の最後で見事に裏切られました。

 次点はメアリ・ヒギンズ・クラーク「当たりくじはどこに」でしょうか。夫婦でずっと宝くじを買い続けてきたアーニーとウィルマ。あるクリスマス、アーニーは自分たちの買った宝くじが当選していたことを知ります。ウィルマはクリスマスを姉の元で過ごしているため、アーニーは前祝いとばかりに一人酒場へと繰り出します。しかし下心から近所に住む魅力的な人妻ロレッタの気を引くため宝くじで二百万ドル当てたことを耳打ちしてしまい、まあ後はどうなるかお察しの通りなのですが。犯人は明白です。しかし相手は白を切り続け、どうやったら「動かぬ証拠」を突き付けられるのかという一部の倒叙ものにも通じる謎がそこにはあります。この解決が個人的にはかなり鮮やかに思えました。

 さらに次点なるとエドワード・D・ホック「妖精コリヤダ」でしょうか。オカルティックな事件を専門とするサイモン・アークものです。本書では一番パズラーっぽい話です。ほかにパズラーっぽいのはアシモフの「ホッホッホ」ぐらいでしょうか(クリスマスのデパートでサンタの格好をした人物が盗みを働くという話です。ユニオンクラブもの)。さてサイモンはある大学の構内にある居住地区に住んでいるのですが、その居住地区で家々を妖精コリヤダが訪れるというのが発端。コリヤダというのはロシアの伝承でクリスマスの家々を訪れプレゼントをくれるという妖精の乙女だとか。途中凍え死んだかのような死体が現れ、このコリヤダが一瞬にして彼を氷漬けにしたかのようだと記述者の「私」は想像するのですが……。個人的には手がかりが結構面白くて良かったです。

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