クリスマス・ミステリレビュー③

ぜとこの読書感想文 第2回 飛鳥部勝則『殉教カテリナ車輪』

●あらすじ

 憑かれたように描き続け、やがて自殺を遂げた画家・東条寺桂。彼が遺した二枚の絵、“殉教”“車輪”に込められた主題とは何だったのか?彼に興味を持って調べ始めた学芸員・矢部直樹の前に現れたのは、二十年前の聖夜に起きた不可解な二重密室殺人の謎だった―緻密な構成に加え、図像学と本格ミステリを結びつけるという新鮮な着想が話題を呼んだ、第九回鮎川哲也賞受賞作。(「BOOKデータベースより」)

●コロナ禍の合法的クリぼっちの過ごし方(?)

 みなさんどーも、ぜとこです。
 読書感想文第2回目は十二月ということでクリスマス特集!我らがDミス研の管理人殿から、「クリスマス」というお題で書評を募集するというお達しがメンバーにありましたので、今月は1人きりの聖夜にぴったりのミステリをご紹介いたします!

 今回の作品である『殉教カテリナ車輪』の著者・飛鳥部勝則ですが、作品の入手難易度が高く、ネットでの評判も非常によろしかったため、前から読みたいと思っていた作家でした。今回、そのデビュー作がお題に合致しているので、いい機会だと思って読了。

 ちなみに図書館で借りました。古本屋をハシゴしたけど見つからなかった(そりゃそうだ)んだもん。

●所感

 一読して、実に端正な王道本格ミステリだと感じました。この完成度でデビュー作ってのはすごい。

 まずタイトルがいいですよね。タイトルフェチの私に刺さります。変わった感じでありながらカッコよくて、どこか神聖でミステリアス、仄かな背徳感も香る。

 雪のクリスマスイブの夜の館で起きた二重の密室殺人という舞台・道具立ては、本格好きにはたまらないでしょう。文章が読みやすいのも好感度大。
 また、登場人物も魅力的な人物ばかり。個人的には、豪佐世子という人物が印象に残りました。一見すると怪しげな淑女なのですが、時折口調が変わったときに覗かせる素の部分や、義母として東条寺桂へ向けるまなざしは非常に好ましく思えます。エピローグの佐世子がまた素敵なんだよなぁ……。

 画家でもある作者自身が描いた絵を用いて図像学の解読をストーリーに絡ませる斬新な手法は、物語の味付けとして作品全体に深みと新たな謎解きを与えており、その過程を読むだけでワクワク感を覚えました。

 入手難易度は高いですが、それに見合った満足感をあたえてくれる秀作です。

 以下、ネタバレを含んでの書評になりますので、未読の方はご注意を。

●トリックと伏線

 本作の主な仕掛けは二つ。二重の密室でほぼ同じ時刻に同じ凶器で行われた二つの殺人がどのようにして成し遂げられたかというものと、手記形式を利用した視点の入れ替わりです。二つの仕掛けは相互に結びついており、背後には図像学の謎が横たわっています。

 このうち、視点の入れ替わりに関しては気づく方も多いでしょう。私も明らかに違和感は感じましたが、とりあえずそれを放置して読み進めました。そのため、叙述トリックが仕掛けられていることはなんとなくわかったのですが、誰の視点にすり替わっているのかまでは読み解くことが出なかったです(汗)

 ちなみに、この部分は伏線が非常に秀逸。矢部が最初の章で話した、推理小説を途中の一章分だけ書いたことがあるという会話文が見事に活かされています。
密室トリックでは、作中で間違った推理と真相の推理の二通りが語られますが、このダミー推理が中々に面白いです。真相は偶然の要素が大きいため、トリック単体だと人によっては好き嫌いが分かれるでしょうが、桂の自殺につながってくるというストーリーとの合わせ技により、無理を感じさせません。

●終わりに

 美香に手袋ではなく、ナイフを投げてしまった桂。不幸な偶然が切なすぎますね……。

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