クリスマス・ミステリレビュー②

ジェイムズ・マクルーア『暑いクリスマス』(1984、早川書房)

 本書はタイトル通りの暑いクリスマス(南半球でのクリスマス)下での事件を描いた作品です。舞台は南アフリカ共和国、作中ではアパルトヘイトが行われています。この本が書かれたのは1974年なので、現実でもアパルトヘイト政策が行われていたことになります。作者のジェイムズ・マクルーアは南アフリカ共和国で生まれ、26歳で家族とともにロンドンに渡るまでは南アフリカ共和国で暮らしたとか。

 クレイマー&ゾンディと呼ばれるシリーズのうちの一冊で、クレイマーは白人の刑事、ゾンディはバンツー族出身の黒人の刑事です。この2人は今までいくつかの難事件を解決してきたコンビのようでクレイマーの方が上司に該当します。
警察内でも当然人種差別があるのかゾンディの能力を疑うような発言をクレイマーは周囲の警官から何度も聞かされます。一方クレイマーという人物はかなり口が悪く、黒人に対して偏見を持っていないようにも見えないのですが、ゾンディという一個人の能力は信頼しているのです。

 ゾンディはこの一冊だけだとイマイチわからないのですが、自分に目をかけてくれるクレイマーには感謝の念を抱いているように思いました。

 本書は名コンビのクレイマーとゾンディが別行動を取らされることから始まります。クレイマーはこれを上層部が自分たちの功績を疎んでいる故だと推察。そこからはいわゆる二点中継ものになります。尻上がりに面白くなっていき、最後十数ページはかなり手に汗握る展開で、真相は社会派的な問題意識の色彩も備えています。

 原題は“The Gooseberry Fool”というもので、邦題とは直訳の関係にはなさそうです。ネットで調べてみるとfluit foolという果物を使ったデザートの一種のようで、gooseberryというのはセイヨウスグリのことらしいので、それを使ったものなのでしょうか。作中に出てきたかは全く覚えていないのですが、イギリスや南アフリカ共和国で定番のクリスマス料理だったりするのでしょうか。

 ちなみに本書は長谷部史観『海外ミステリ歳時記』という季節ごとのミステリを紹介する本で知りました。

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