揺籠のアディポクル/市川憂人

 ウィルスすら侵入することの出来ない無菌病棟で誰が彼女を殺したのか

 ボーイミーツガール×本格ミステリ

 本作は基本的に2部構成であり
 前半はアディポクルという謎の病について
 そして後半が無菌病棟で起きた殺人事件の犯人を追うという筋書きとなっている

 「感染症」というコロナ禍に見舞われた2020年を代表するに相応しい題材がメインテーマとして使われており、それを交えながら幼いながらも自らに立ち塞がった運命に反抗する主人公達の姿、そして丁寧かつリーダビリティに富んだ文体で描かれた二人の関係性の変化に心打たれることは間違いないだろう

 本作の著者は「ジェリーフィッシュは凍らない」で第26回鮎川哲也賞を受賞して以降、コンスタントに作品を発表し続けているが、デビュー作を含めて、どの作品もアガサ・クリスティ「そして誰もいなくなった」の影響が大きく、本作もその系統と言える

 しかし、作者の持ち味を存分に活かし、時代性を大いに取り入れた本作は「そして誰もいなくなった」の類型から飛び出し、まさしく「市川憂人の一作」として語るべき一冊である

written by 倫敦