蟬かえる/櫻田智也

 人間の悲しみや切なさ、愛おしさを描いた作品
 というフレーズだけでは到底伝えきれない珠玉のミステリ


 この作品はミステリーズで新人賞を受賞した櫻田智也の、表題作を含んだ短編集『サーチライトと誘蛾灯』の続編第二弾にあたり、昆虫好きでどこか天然な青年である魞沢泉を探偵役とした短編集だ。

 著者があとがきでも述べているとおり、前作の一歩引いた立場の記号的な探偵役から、人間味のある魞沢泉という人物になったことで、物語の深みが増している。ただし前作を必読というわけでもない。これを書いている私自身も『蟬かえる』から読んだ身だ。

 どの話も昆虫を絡めた民俗学的あるいは医学的など、様々なテーマを有する短編ながらも、この作品の真骨頂は、ほろっと涙が零れ落ちそうになる人の哀切や愛おしさを描いた叙情的な表現力にあると言える。どんな場合でも、人が人を想う心は尊く、その想いに読者は心を打たれる。それでいて、しっかりとミステリとしての構成まで違和感なく成されていることには脱帽せざるを得ない。

 ぜひ第一話の表題作を読んでみて、自分に「合う」かどうかを確かめて欲しい。

 続編に期待することは言うまでもなく、少しでも多くの読者がこの本を手にすることを願いながら、ここまで稚拙な文章を読んでいただいたあなたにも感謝を。

written by Saku